Part5 土呂久を語り継ぐ

土呂久を伝える書籍

 土呂久鉱毒事件の全体像を知るには、田中哲也著「鉱毒・土呂久事件」(三省堂選書、1981年)がふさわしい。事件発生から提訴までのできごとがジャーナリストの目で具体的にとらえられている。亜砒鉱山がむら人の生活総体を巻き込んで起きた事件の詳細は川原一之著「口伝 亜砒焼き谷」(岩波新書、1980年)で読むことができる。石器時代から現代までの土呂久の歴史をたどり、土呂久の投げかけた問題を文明史的に読み解こうとしたのが川原著「浄土むら土呂久」(筑摩書房、1988年)。艱難辛苦をつきぬけてまぶしく輝く患者の世界を描いた作品に川原著「土呂久羅漢」(影書房、1994年)がある。
 土呂久に住む人びとが背負う被害の重さと、それを越えて、今を生きるための村落共同体の明暗を見つめた写真集が芥川仁著「土呂久」(葦書房、1983年)。芥川著「輝く闇」(葦書房、1991年)は、歴史の闇と闘うむら人がきらりと輝く、その一瞬の記憶をとどめた映像で編まれた写真集である。
 土呂久・松尾等鉱害の被害者を守る会の初代会長落合正著「土呂久鉱害問題と闘う」(鉱脈社、1990年)には、基本的人権の尊重を訴えて闘った被害者と支援者の軌跡が記されている。守る会の2代目会長上野登著「土呂久からアジアへ」(鉱脈社、2006年)から、砒素をキーワードに土呂久からアジアへ舞台を広げていくネットワークの深まりを教えられる。
 守る会は、患者の手になる記録の出版もおこなってきた。佐藤アヤ著「いのちのかぎり」(1977年)から、回想記や短歌の形で表現された病床の叫び声がいまも響いてくる。被害者の先頭に立っていた佐藤鶴江著「生きとうございます」は、遺された講演記録、日記、書簡、歌などで編集され、公害告発当時の被害者をとりまく厳しい状況を伝える。
 支援者、弁護士、医師ら16人が共同執筆した「記録・土呂久」(本多企画、1993年)に、告発から和解にいたる20年の運動が克明に刻まれている。祖母山系の深い谷間で、辺境の被害者と都市の支援者がともに燃やしたエネルギーの根源に、いったい何があったのか。毎日出版文化賞特別賞を受けたこの書から読み取ってほしい。

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