Part4 慢性砒素中毒症

アジアの砒素汚染地をつなぐ

 1980年代以降、アジア各地から砒素中毒発生の報告が届くようになった。1980年に中国・新疆ウイグル自治区、1982年にインド・西ベンガル州、1987年にタイ・ロンピブン村、1989年に中国・内モンゴル自治区……というように。「土呂久の教訓をアジアの砒素汚染地に伝えよう」と、土呂久・松尾等鉱害の被害者を守る会が母体になって、1994年4月アジア砒素ネットワーク(本部・宮崎市)を結成した。
 1995年2月インド・コルカタで開かれた「地下水の砒素汚染に関する国際会議」をきっかけに調査が進み、チューブウエル(管井戸)で汲みあげる地下水の砒素汚染が、アジアの大河流域に共通した問題であることがわかってきた。世界銀行の報告書(2005年)は、地下水砒素汚染地域に6000万人が住んで70万人の砒素中毒患者がでている、と報告した。もっとも汚染規模が大きいのは、ガンジス、ブラマプトラ、メグナの三大河川がつくったデルタの国バングラデシュである。
 アジア砒素ネットワークは中国、台湾、ベトナム、カンボジア、タイ、ミャンマー、ネパール、バングラデシュ、インドなどで調査・対策をおこなってきた。2000年にダッカに支部を置き、バングラデシュでの活動に力を入れている。
 土呂久は鉱山操業がもたらした砒素汚染であり、アジアに広がる地下水汚染と原因は異なるが、人体に現れる砒素中毒の症状に変わりはない。「私たちと同じ砒素で苦しんでいる人たちの力になってあげてください」という土呂久の被害者の言葉に励まされ、アジアの砒素汚染地をつないで、問題解決に協働する態勢づくりを進めている。

国は違っても症状は同じ 土呂久の患者(左)とバングラデシュの患者のボーエン病