Part3 人権回復の願い

被告はあらゆる点で争った

 土呂久訴訟は、公害裁判で一般化していた「包括一律請求」の考えにそって患者1人の損害を3000万円とし、1割の弁護士費用を加え、知事あっせん受諾者2人は受領した金額を差し引き、鉱業法109条に基づいて総額1億9150万円を最終鉱業権者の住友金属鉱山に請求した。
 被告は、徹頭徹尾あらゆる点で争った。土呂久地区の環境汚染については「土呂久の土壌や水が鉱山操業によって変質した事実はない」と否定、砒素による健康被害は「環境庁が定めた認定要件の症状を基本とする」と狭くしぼり、鉱業法上の責任に関しては「鉱石代焦げつき債権回収の一手段として土呂久鉱山の鉱業権者となったもので、何ら稼行の実績を有しない本社は賠償責任を問われる立場にない」とし、知事あっせんについては「知事のあっせんを受けた原告の損害賠償請求権は失効している」と主張した。
 原告は、1975年12月の1次提訴(5人1遺族)につづいて、76年11月の2次提訴(12人)、77年12月の3次提訴(2人1遺族)、78年3月の4次提訴(2人)で患者数にして23人になり、請求金の総額は7億785万円に増加した。結審したのは83年2月23日、原告23人のうち12人が亡くなり、半数の6人の死因はがんという痛ましさだった。

鉱業法109条
 鉱物の採掘のための土地の掘さく、坑水若しくは廃水の放流、捨石若しくは鉱さいのたい積又は鉱煙の排出によって他人に損害を与えたときは、損害の発生の時における当該鉱区の鉱業権者(略)が、損害の発生の時既に鉱業権が消滅しているときは、鉱業権消滅の時における当該鉱区の鉱業権者(略)が、その損害を賠償する責に任ずる。
 3(略)損害の発生の後に鉱業権の譲渡があったときは、損害の発生の時の鉱業権者及びその後の鉱業権者が(略)連帯して損害を賠償する義務を負う。

 鉱業法109条は、被害者保護を優先した画期的な条項として知られている。鉱業権は、鉱区を設定した者がその地下に埋もれている鉱物資源を独占して占有できる特別な権利である。この特権を得た者は、鉱山操業(土地の掘削、廃水の放流、鉱滓のたい積、鉱煙の排出)によって起こった損害について、損害発生時の鉱業権者だけでなく、その後に鉱業権者になった者も連帯して賠償する義務を負う、と定めている。さらにこの法律は、鉱山操業と被害の間の因果関係さえ明らかであれば、事業者に故意や過失があったかどうかを問うことなく、鉱業権者に賠償の義務があるとしていることでも画期的とされている。
 鉱業法は、鉱山事業に関する根本となる法律なので、鉱業権を取得した者は当然、この条文に忠実にしたがわなければならない。住友金属鉱山は、土呂久鉱山で操業をしたかどうかに関係なく、土呂久鉱山の鉱業権を手に入れた時点で、過去の鉱山操業によって起こったすべての被害を賠償する責任を負っている、というのが原告の主張だった。