Part3 人権回復の願い

あっせん受けた患者の無念

 わたしとしては、身体全体の症状について、補償を認めてほしいといいました。ところが、砒素による症状は皮膚に限られるとするのが、いまの科学の限界だといわれ、その他の病気は持病にされてしもたとです。それで、補償額は安くなりました。内臓障害をぜひ対象に含めてくれ、と強く主張したとですが、医学的に認められんと言われては……。慢性砒素中毒の研究を今から始めて、医学的に認められるのは、10年先かもっと先かわかりません。われわれはこれまで50年間苦しんできたとです。早く見通しをつけたかった。 (鶴野秀男さんの話)

 調印するとき、腹が立った。知事が読み上げる確認書には、皮膚の病気に限っての補償とは書いてない。それどころか、補償金をもらったあと追加請求はしないとの項目がある。こんなこといつ約束したじゃろか。初めて聞いたとです。目や胸の病気も砒素の影響だと認められたら、補償を追加するのが本当じゃないですか。「ちょっと待ってくれ、知事さん」ちいおうかと思うたとやが。いえば、えらい騒動になると思うて、やめたとよ。知事のあっせんとはあんな風にやるものかと初めて知った。「無理やり自分はさせられた」ちいうても、もう調印しとるけね。これが落ち度じゃわ。私は人がよすぎると。ホント、ホントじゃが。情に負けたとよ。あんな中で、どうしても負けたとよ。 (佐藤鶴江さんの話)

無念の佐藤鶴江さん(左)と鶴野秀男さん